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サーボアナライザを用いたDCDCコンバータの開ループ周波数特性測定例 (2017/6/10改訂)

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1.概説
 サーボアナライザを用いたDCDCコンバータの,開ループ周波数特性測定の例題として,
ROHM社のBD9673EFJを用いた降圧型DCDCコンバータの周波数特性を測定します。
 ROHM社のBD9673EFJには,図1.1のような評価ボードが市販されており,ROHM社による
実測データも公表されていますので,この基板を用いて測定を行い,比較/評価します。



図1.1 BD9673EFJ評価ボード(BD9673EFJ EVAL BOARD)

2.評価ボードの回路構成と制御ブロック図
 評価ボードの回路構成を主要部だけに簡略化すると,図2.1のようになっています(入出
力の左右が通常と逆なのでご注意ください)。
出力電圧VoutがR1とR2で分割されてFBに入力され,そのFB電圧が1Vになるように
出力電圧Voutが制御されます。図2.1の場合は出力電圧は5Vとなります。
 DCDCコンバータの周波数特性は負荷抵抗によって異なるので,評価ボード出力に
負荷抵抗 RLを接続します。


図2.1 BD9673EFJ評価ボードの回路構成(簡略化)

 制御ブロック図で表現すると,図2.2のようになります。ここでG(s)は負荷抵抗を含めた
前向き伝達関数,Kはフィードバック利得で,R1とR2による分割比(0.2)です。



図2.2 DCDCコンバータ制御ブロック図

3.計測用治具
 サーボアナライザで開ループ周波数特性を測定するために,図3.1のように,
評価ボードの電圧フィードバック径路を切断し,計測用治具を接続します。
 計測用治具には,トランスやオペアンプ構成のものなど,各種のものがありますが,
ここではオペアンプ構成の計測用治具を接続します。


図3.1 計測用治具の接続

 計測用治具の入口には,BD9673EFJの内部オシレータの300kHz信号を除去する
T-notchフィルタがあります。通常のアナログサーボ系の測定では不要ですが,
今回の計測では300kHz信号がアリアスとなり,測定精度が下がることを防ぎます。
 次のオペアンプは,検出電圧とサーボアナライザからの励起出力を加算する利得(-1)の加算器です。
2段目のオペアンプは,測定用治具全体を正相に戻すためのインバータで,
これがないと制御系は発振します。
 サーボアナライザからの励起出力を計測用治具のExciterに接続し,サーボアナライザ
入力のCh-AとCh-Bを図3.1のように接続します。
 このときの制御ブロック図は,図3.2のようになり,計測される開ループ伝達関数は,
G(s)Kとなります。すなわち,測定されるデータは開ループ伝達関数の位相が180度
反転したものであることにご注意ください。



図3.2 計測用治具を含む制御ブロック図

4.測定結果
 以下では,弊社サーボアナライザASA-100で測定したものと,次章で後述する理論解析,
メーカー公表値(BD9673EFJ(ROHM).pdf)を比較検討します。

4.1 負荷依存性
 Vcc=24V, RL=10Ω(iout=0.5A)の場合,図4.1のように,クロスオーバ周波数は14.1kHzで
位相余有(余裕 *1)は70.1度と計測されており,理論解析ともほぼ一致しています。メーカー公表値では
理論値よりループ利得が小さいのか,クロスオーバー周波数が10.2kHzと理論解析より低くなっており,
そのぶん位相余有が76.1度と大きくなっています。
 Vcc=24V, RL=5Ω(iout=1.0A)の場合,図4.2のように,クロスオーバ周波数は23.7kHzで
位相余有は45.2度と計測されており,クロスオーバー周波数はメーカー公表値とほぼ一致
していますが,位相余有はメーカー公表値55.4度より少ない結果になっています。
 理論解析では,クロスオーバ周波数と位相余有ともに負荷抵抗の大きさによる違いは少ないのですが,
実測ではかなり異なっています。弊社測定,メーカー公表値とも負荷抵抗の違いに対して
同様な傾向を示しています。
 メーカー資料に準拠した理論解析ではモデル化がまだ不十分な要素があると考えられます。

  
図4.1 Vcc=24V, RL=10Ω(iout=0.5A)    図4.2 Vcc=24V, RL= 5Ω(iout=1.0A)

4.2 電源電圧依存性
 Vcc=19V, RL=10Ω(iout=0.5A)の場合,図4.3のように,クロスオーバ周波数は14.1kHzで
位相余有は68.8度と計測されています。
 Vcc=19V, RL=5Ω(iout=1.0A)の場合,図4.4のように,クロスオーバ周波数は22.3kHzで
位相余有は44.6度と計測されています。
 電源電圧の依存性は少ないという測定結果になっています。

  
図4.3 Vcc=19V, RL=10Ω(iout=0.5A)    図4.4 Vcc=19V,RL= 5Ω(iout=1.0A)

  
図4.1 Vcc=24V, RL=10Ω(iout=0.5A)    図4.2 Vcc=24V, RL= 5Ω(iout=1.0A)

(*1)Phase Marginを翻訳した制御用語として,「位相余有」と「位相余裕」の2種類が使われています。
 私の学んだ時代の教科書の1つである「自動制御理論」(電気学会 S46年初版)には「位相余有」が
 使われています。計測自動制御学会でも「位相余有」が使われていましたが,最近は「位相余裕」も
 使われているようです。
 私としてはPhase Marginを,すなおに「位相余裕」と訳したほうがいいとは思いますが,なつかしい
 こだわりを込めて,「位相余有」と表記しています。

5.理論解析
 (1)以下の記述において,電気的特性パラメータの範囲を(Min./Typ./Max.)と表記します。
  これらの範囲はBD9673EFJのデータシートの値を採用しています。
 (2)各パラメータの添数字は,評価ボード上に印刷された数字にあわせてあり,BD9673EFJの
  データシート中の数字とは異なっていることに注意してください。
 (3)シミュレーションは,ROHM社のデータシートでの説明を数学的にフォローし,再検証しています。
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 BD9673EFJ評価ボードで,負荷抵抗RLを含んだ簡略化ブロック構成は,図5.1のようになっています。


図5.1 BD9673EFJブロック構成

DC/DC回路の出力電圧Vout(t),抵抗R1(120kΩ)R2(30kΩ)による分割比K(0.2)
フィードバック閾値電圧
VFB(0.99/1.0/1.01V)とすれば,誤差アンプの入力誤差電圧e(t)は,

 ······································  (式1)

誤差アンプは電流出力のトランスコンダクタンス型であり,誤差アンプの出力インピーダンスREO(Ω)
VC端子に取付けた補償インピーダンスによって入力誤差電圧
e(t)から出力電圧Ve(t)までの
周波数特性が既定されます。

Ve(t)を入力とする次段の電流アンプは,周波数300kHzのオシレータと鋸波を用いた
PWM方式で,
Ve(t)から出力電流iOUT(t)へのトランスコンダクタンスは電流検出アンプの利得で決まります。

入力誤差電圧e(t)から出力電圧Vout(t)までの等価ブロックは図5.2のようになっています。
抵抗
R1(120kΩ)R2(30kΩ)による分割回路はインピーダンスが高いので無視しています。

図5.2 等価ブロック図

ここで,以下のように表記しています。
誤差アンプの電圧利得AEA(700/7000/70000V/V)
誤差アンプのトランスコンダクタンス
GEA(110/220/440μA/V)
誤差アンプの出力インピーダンス
REO(Ω)
誤差アンプの出力電流
ie(t)
誤差アンプの出力電圧Ve(t)
電流検出部のトランスコンダクタンスGCS(5/10/20A/V)
出力電流iOUT(t)
インダクタ入力電圧VI(t)
インダクタンスL(H)
インダクタ内部抵抗RI(Ω)
DC/DC出力電圧Vout(t)
出力コンデンサ容量C1(F)
負荷抵抗
RL(Ω)

このブロック図より,

ラプラス変換して,

 ·········································  (式2)

誤差アンプ出力に接続された位相補償コンデンサ容量C2(6800pF),位相補償抵抗R3(10kΩ)
位相補償コンデンサ端子電圧
Vc2(t),位相補償抵抗端子電圧VR3(t)とすれば,

ラプラス変換して,

 ·······················································  (式3)


(式2),(式3)よりを消去してについて整理すると,

 ················································  (式4)

しかるに,誤差アンプの出力インピーダンスREO(Ω)は,

であり,R3(10kΩ) より十分大きいので,

 ········································  (式5)

誤差アンプの出力電圧Ve(t)から出力電流iOUT(t)の関係は,

ラプラス変換して,

 ·······································  (式6)

誤差アンプ以降の電流ドライバは,実際には周波数300kHzのデジタル処理なので,
上式にサンプルホールド関数を追加します。

 ················  (式7)

ここで,T (3.33e-6sec)はオシレータの発振周期です。

インダクタのインダクタンスL(H)と内部抵抗RI(Ω)との直列インピーダンスZ1
出力コンデンサ
C1(F)負荷抵抗RL(Ω)からなるインピーダンスZ2,全体のインピーダンスZとすれば,

インダクタの入力電圧VI(s)は,

 ····························································  (式8)

DC/DC出力電圧Vout(s)は,

·······································································  (式9)

(式9)からインダクタンスL内部抵抗RIは出力電圧には影響しないことがわかります
(ただし,出力電圧のリップル特性には影響します)。

 ······  (式10)

この回路の制御ブロック図は,図5.3のようになります。

図5.3 制御ブロック図

開ループ伝達関数GOPEN(s)は,

 ·······  (式11)

(式11)より,この回路は2つの「極」の時定数
1つの「零」の時定数を持っています。

各周波数は,

クロスオーバー周波数Fc以上では,(式11)は近似的に,

 ·················  (式12)

クロスオーバー周波数Fcでの利得(=1)に関しては,

 ·······························································  (式13)

より,

 ··············································  (式14)

なります。ただし,このFcは概略値です。


実際に開ループ周波数特性GOPEN(s)を計算すると,
iOUT=0.5A (負荷抵抗RL=10Ω)の場合,図5.4のようになります。クロスオーバ周波数15kHz,
位相余有73度で,きわめて安定です。

図5.4 開ループ周波数特性計算値 (iOUT=0.5A)

iOUT=1A (負荷抵抗RL=5Ω)の場合,図5.5のようになります。クロスオーバ周波数15kHz,
位相余有75度で,きわめて安定です。

図5.5 開ループ周波数特性計算値 (iOUT=1A)